小泉元首相インタビュー(新潟日報 平成30年2月1日)
使用済み核燃料の最終処分場も決まっていませんが、政府は原発の再稼働を進めています。どう受け止めますか。
「再稼働する必要もないし、反対だ。再稼働したらまた核のごみが出る。産業廃棄物の処理業者は、ごみの処分場を確保しなければ廃棄物処理の会社をつくれない。核のごみは産廃ごみと比較にならないほど毒性が強い。電力会社は一カ所も処分場を見つけられない。再稼働以前の問題だね」
原発の再稼働を求める動きは根強くあります。
「原発推進論者は原発は『絶対安全』『コストが安い』『(地球温暖化につながる)二酸化炭素を出さずにクリーン』の三つを主張し続けてきた。でも、福島第1原発事故後に全部うそだと分かった。チェルノブイリ原発事故があっても『日本の原発は安全だ』と言ってきた。それなのに、東日本大震災では地震と津波で原発はメルトダウン(炉心溶融)した」
「福島事故で東電は避難者の損害賠償や除染、廃炉もできていない。そんな費用は発電コストに入っていない。安いなんてもう言えないでしょう。二酸化炭素よりも危険な核のごみを出すし、クリーンとは言えない。推進論者の主張は全部壊れた」
それでも政府が再稼働を進めようとしているのは、なぜでしょうか。
「電力会社は原発にこれまで多額の投資をしてきた。事故後は安全対策にもお金がかかるようになった」
「原発は関係する企業が多く、作業員が利用すれば地元の商店街や飲食店が潤うと言われた。『原発ゼロ』になれば仕事がなくなると考える人たちの(再稼働に向けた)運動は強い。原発をゼロにするには、原発がなくても十分再生可能エネルギー産業で経済が発展できるということで、地域を説得しないといけない」
本当に「原発ゼロ」は実現できますか。
「福島事故後の7年間、ほとんど原発が動いていない。日本は原発ゼロでやっていけることを証明した。日本は太陽光や風力などを進めないといけないのに、中国や欧州に遅れをとっている。政府は再生可能エネルギーの普及を妨害したい原発推進論者の意向に従っている。情けないね」
なぜ、脱原発を訴えるようになったのでしょう。
「首相の時に、原発について経済産業省や原子力の専門家に『原発は安全で、資源のない日本に原発がなければ経済成長は出来ない』と言われ、なるほどと思った。でも福島事故の悲惨な状況を見て、安全でないことに気づいた」
「事故以後、本を読んで勉強したら原発推進論者の主張が全部うそだと分かった。過ちて改めざる、これを過ちという。黙っているわけにはいかんと思い立ち、反省の意味を込めて今の活動を始めた」
小泉さんは講演で全国を回っています。各地の脱原発に向けた機運はどうですか。
「国民の脱原発のエネルギーは熱く、強いものがある。福島事故から7年間、原発がなくてもやっていけることを分かっているんだ。やればできるのに、なぜ政府はやらないのか」
安倍晋三首相はなぜ決断しないのでしょう。
「それが不思議だ。去年かな、総理経験者の懇親会で安倍首相に『経産省にだまされているんだぞ』と言ったけど、反論しないでただ苦笑して聞いているだけだった。原発推進論者に洗脳されているんだろうな」
9月には自民党総裁選があります。小泉さんの考えに共鳴しそうな議員はいますか。
「河野太郎さんは外相で発言を控えているけど、基本的には原発ゼロの考えだ。どうなるか分からないね。いずれ(選挙で)原発が争点になるときが来るよ。そのときにどう動くかだ」
立憲民主党などが「原発ゼロ基本法案」を今国会に提出する予定です。野党との連携はありますか。
「私は政党や選挙などの運動は、もうしない。それよりも国民運動を盛り上げたい。それが結果的に政治を動かしていくだろう」
県は福島事故原因などを独自に検証しています。「検証が終わらない限り再稼働の議論をしない」と主張する米山隆一知事をどう評価しますか。
「新潟市に行ったときに会ったが、弁護士だからか緻密で論理的な人だった。米山知事の論拠に反論できる推進論者はいないのではないか。米山さんが知事である限り、再稼働なんて認めないと思うよ。頑張ってほしい」